巨大物恐怖症

私事

いつからか、私は自身が「巨大物恐怖症」的な何かを、大仰に言えば”患っている”と自覚した。

記憶を辿ってみてもトラウマが植えつけられるような経験はなさそうで、ましてや特撮の大怪獣に恐怖していたどころか熱中していた幼少期だったように思う。

思う、と言ったのはその実覚えていないからである。ただ未だに実家の片隅に存在が許されている当時のおもちゃ群などを見ると、そういう類のソフビ人形が相当数あったものだから、そうなのだろうと予想しているに過ぎない。

かてて加えて、私は幼少期の記憶が人より少ないように思われる。無論”データ”があるわけでも、”エビデンス”があるわけでもない。

そういう異国感化の言葉遊びは好まない。どうでもいいことか。

さて、そんな私が無自覚に自覚した「巨大物恐怖症」であるが、そもそもこんな言葉存在するのか?と気になったので、定義というやつを調べてみた。

・巨大物恐怖症…メガロフォビア。自分より圧倒的に大きい人や物に対して威圧感、恐怖感を覚える恐怖症のこと
※恐怖症…特定のある一つものものに対して、心理的および生物学的に異常な恐怖を感じる症状

いい加減な調査であったので果たして正しいものかは知らないが、凡そ私が抱く感情に近しいので、今回はこれでよしとする。

まあ一言で言えば、マジョリティが「怖くない」と思うような”デカブツ”を「怖い」と感じるマイノリティの呼称と言ったところか。

症状とまで表現されてしまったので、まるで我々が異質側と断言された気分だ。どうでもいいが。

兎に角、この「症状」がない方々にとっては意味不明な感覚と言ったところであろう。ので、例を出してみた。

あくまで私個人が恐怖を感じるモノであるため悪しからず。

1.牛久大仏

実にベタだが、この大仏様はなかなかに怖い。

ただし実物を見たことがあるわけではないので、実際のところは不明。

もはや巨大仏恐怖症だろう。

とにかくgoogle画像検索で出てくる牛久大仏は大体怖い。

それではなぜ怖いのかを考察してみる。

まず、普通の街並みの中にあり得ない存在があることの異物感、あってはならないもの(と勝手に感じている)への恐怖。

ときに私は大きなものを見上げる際、足元に不安を感じる性質なのだが、それと同じ感覚を画像でも味わえる。

約120mあるらしいが、想像しただけで足がぞわぞわする。思わず「こりゃ症状と言われても致し方ないな」と思い直す。

それでいてまたこの人型であることが罪なのだ。

例えばこれが建造物なら何とも思わないあたり、私の症状は実に症状じみている。

実体験として東京スカイツリーを見上げても、この恐怖感は全く湧き上がってこない。でも足のすくむ感覚はあったような気がしないでもないな。

そもそもこの「デカいものを見上げると足がすくむ」というやつ。足元が不安定になるこの厄介な症状は、私が小学生の時分に初めて経験した。

先に述べたように、幼少期の記憶が曖昧な私に備わる数少ない明確な記憶だ。恐怖と結びつくと記憶定着力は高まるのだろうか。ありそうな話であるが正確には知らない。今度調べてみようか。

さてその初体験時の状況だが、確か小学生3~4年生くらいの折、真夏の富士山頂で味わった。

私は小学校1年から中学校2年で自然消滅するまで、毎年夏に父と富士登山をする慣例があった。

妹、祖母、従妹などと連れだって登ることも多々あったが、必ず参加したのは私と父だった。

毎年必ず富士宮口から山頂を目指し、元祖七合目に宿泊するというのが決まりだった。話を戻す。

ある年、登頂して一息ついていた時。その日の山頂は胸の空くような快晴だった。

なんとなしになんとも青々しい空を眺めていると、火口方面からこちらに向かってド迫力の雲が迫っていた。

それは富士山頂に佇む我々よりもさらに高い位置にそびえる入道雲。

下界(富士登山者は地上の事をよくこう呼ぶ)ではありえない遠近感、迫る速度、巨大さ。

たった数十秒前まで青一色だった視界は、たちまち巨大な入道雲に覆われた。

まさにこの時、私は恐怖で足がすくんだのだ。

感覚としては、足元がぐらついて、不安定で、このまま滑落してしまうのではないかという根拠のない不安感に襲われるような。

少し強い風が吹いただけで、そのまま振り落とされてしまいそうな感覚。

思わず振り返って山頂までお世話になった登山道を確認するが、今ここで誰かに突き飛ばされたところで屁でもないほどの安全エリアである。

だが当時の私は怖くて、思わず休憩する振りでしゃがみ込んだ。

それでもなお足元の不安感は解消されなかったというのだから、もしかしたらこれが冒頭に述べたトラウマに該当するのかもしれない。

長くなったが、足元の不安感はこんな感じだ。もはや2.入道雲だな。

3.惑星

これこそ一度画像検索なりしていただきたいのであるが、本項こそが私が巨大物恐怖症を自覚するに至ったものである。

誰が考え出したか「もしも月と同じ位置関係に他の惑星が存在したら」という趣味の良い合成画像だ。

その中でも「やべえ」のが木星と土星である。

まず木星であるが、デカすぎる。

こんな地球になったら希死念慮で頭がどうにかなりそうだ。まあ慣れるのであろうが。

先ほどの牛久大仏の最強版だと思っていただければ良いだろう。

あってはならないものが、あってはならないデカさで、あってはならない場所に存在する。これが怖いのだ。

このことを我が親友に打ち明けたら「神秘的で恐怖を感じる要素なんてない」と宣っていたので、一般的な感覚としてはこんなところであろう。

「画像通りの世界になってもいい、むしろ見てみたい」とまで言っていたので”人類間引き計画”的な荒唐無稽な都市伝説を実行する予定のある方は是非参考にしていただきたい。少なくとも巨大物恐怖症の我々はそれなりに間引かれるであろう。

次に土星であるが、木星との違いは大きさだけではない。環がやばい。

あんなものあれだろ、夜とかに動き始めてグルグル回って、恐怖症の気を狂わすためだけの機構だろ。

動きだしそうな感じするんだよなあ。木星より土星の方が動的恐怖がある。

というか木星にしろ土星にしろ、なんだか監視されている感を覚えないだろうか。

それで言うと、どういうテクニックなのかはわからないが、月を必要以上にデカく撮影した画像からも同様の感覚を受ける。

昔の人が「お天道様の下で悪いことはできねえ」と考えていた気持ちもわかりそうなものだ。

いずれにせよ、悪事を働く予定などさらさらないが、我が人生の安寧のため、デカい惑星の接近はご勘弁願いたい。

まあそもそもこんな近くまで来たら引力やらで地球の存続自体が問題なので、希死もへったくれもないな。

4.カイオーガ

ハイ。これが最後の項目なので、バカバカしいと思う気持ちは痛いほど分かるがもう少々お付き合い願いたい。

まずは「カイオーガ 恐怖症」とでも入力して画像検索してみてほしい。

先に言っておくが、私と同じ症状に苛まれ、かつそういう画像を見たくない人はご注意を。

さて、これがかなりやばい。

ついに来た生物のコーナー。

まず知らない人は少数派だと思うが、少数派症状を患う私としては簡単な紹介を省くことなどできまい。

このカイオーガというのは、海に生息するポケモン、つまり架空の存在である。

この画像は実際に設定に基づいた大きさではないのかもしれないが、恐怖を煽るには十分過ぎる。

まず動き出しそうな牛久大仏や土星の環と違って、百パー動くじゃないか。やめてくれよ。

これが怖すぎる。こんなのに動かれたらひとたまりもない。

どんなポケモン達の”わざ”に勝るとも劣らないレベルの勢いで失禁をかますことは間違いないだろう。

ここでふと疑問。これは巨大物恐怖症なのだろうか?と。

誤解なきように言うならば、その括りに入っていることは間違いないだろう。

ただもっと適切な「海洋恐怖症」という症名が存在するのだ。

まさかの併発か?となんとも物悲しい思いであるが、果たしてどうか。

では定義のコーナー。

・海洋恐怖症…海や川、湖などに対する恐怖症である。大量に水の中にいること、海の広大な空、海の波、陸からの距離に対する恐怖が含まれる

おや?なんだか違いそうな気がする。

画像を検索してみても、海が広かったり深かったり暗かったり、そういう類が多い。そしてこれに対しての恐怖は0。

たとえそこに生物の類が映り込んでいたとしても、通常の大きさなら何の問題もない。

ただこう、下からクソデカ生物が迫ってきている系は下手したら大仏や惑星よりも効く。

ここまで様々述べたものの、はっきり言って私の恐怖症は軽いと思う。なぜなら牛久大仏も惑星もその他陸上の巨大生物の類も、確かに怖いが興味が勝る。

個人的な例えとして腑に落ちるのは、高所の例だ。

私はいわゆる高所恐怖症持ちなのだが、それこそ東京タワーのガラス床の上を歩くのは全く苦労しない。そこで飛び跳ねろと言われても、難なく実行できるだろう。

しかし1mの脚立からの景色や、中空構造になっているショッピングモールの上階から手摺越しに下階を見たとき、生まれたての小鹿のようになる。

まあ当然比喩だが、心ではそれくらい震えている。

つまり「安全(と信じられる)か、そうでないか」がキーだ。

何が言いたいかというと、牛久大仏や惑星は東京タワーで、カイオーガはショッピングモールだ。

正直言って例のカイオーガの画像はあまり見たくないくらいに興味<恐怖だ。

つまり私は巨大物恐怖症で、海洋恐怖症ではないらしいけれど巨大海洋生物の方が恐ろしい、という明確な線引きがあるらしい。

よってここに「巨大海洋生物恐怖症」とでも定義しておこう。

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